全ての写真:Andrew Burr
マインクラングは、オーストリアの世界遺産ノイジードル湖国立公園の真ん中にある家族経営の複合農園だ。数世代続くこの農園の管理人の1人、ヴェルナー・ミヒリッツはバイオダイナミックの哲学を、ブドウの木という1つの構成要素に注目することによって「生きている農園の生体を発現させること」と説明する。
バイオダイナミックの実践は、ホリスティックで豊かな農法の哲学である。それは土と植物と動物と人間の良い関係だ。知ってのとおり、動物相はミネラル、水、空気、光という生命物質によって形成される。植物にも、それぞれに独自の在り方がある。
[妻の]アンジェラと私は、この農園のブドウの木と深いつながりがある。ある日、私たちは別の視点からブドウの木を見るようになった。つまり、木は自らの本能に従ってどのように成長し、どのようにそのオーラを生みだすのか。つる性植物のブドウは、主として上昇志向であるから、大地の重さと決別するために、光に向かう強い衝動を育まなければならない。それと同じ情報を、ブドウの木は、私たちがその実を食べたり、ジュースやワインを飲んだりする時に教えてくれる。しかし、それだけでは心もとなく、彼らには助けが必要である。
自然界では、つる性植物は木やヤブを利用して、太陽に向かって成長する。従来のブドウ栽培では、つるを生け垣のように仕立てるが、それはその本能に合わない。そこで、私たちはブドウを切るのをやめ、木自体のバランスに任せて成長させている。
普段の慣れ親しんだ環境から抜けだし、強いて新しい方法を試すことは容易ではない。しかし、植物が高次のリズム、1年の周期、太陽・月・星の動きに、どんなふうに従っているかを見ることには、興味をそそられる。冬至を過ぎると、樹液の流れが植物に生長を促すようになる。夏至を過ぎると、ブドウの木は成熟と結実に集中するようになり、生殖成長が始まる。
農民として、私たちには植物と感覚的関係を結ぶことで、彼らの栄養分が私たちの食物吸収だけでなく、彼らからの情報を受け取る方法でもあることを理解する責任がある。どの植物やハーブや果実にも、私たちに向けて語られる生命の小さな物語がたくさんある。
ミヒリッツ一族と熱心な多文化チームによって営まれるマインクラング農園では、私たちは絶えずそうした物語に耳を傾けている。私たちが栽培するブドウ・穀物・野菜から、農園に活気を添え、自給的に肥沃化してくれるたい肥をつくる牛・馬・豚・鶏にいたるまで、全てが調和をもってつながっている。
写真:(上)アンジェラ・ミヒリッツは、太陽に向かうブドウの自然な成長に逆らわないように作業する。(中段上)バイオダイナミック農業は「土と植物と動物と人間との良い関係」を重視し、尊重する。(中段下)筆者がフェンスを修繕する間、豚は自給肥料で土を修復する。(下)オーストリア最深部にある2,000ヘクタールのマインクラング農園の一角を、ヴェルナーとアンジェラのミヒリッツ夫妻は、家族といっしょに散歩する。